Quantcast
Channel: Foresight »パイプライン敷設
Viewing all articles
Browse latest Browse all 3

着々と進むミャンマー・中国間のパイプライン建設

0
0

 沖縄=台湾=フィリピン=ボルネオを結んだ「第一列島線」、さらに伊豆諸島=グアム・サイパン=ニューギニアと結んだ「第二列島線」なるものを太平洋西南部の広大な海域に設定し、「核心的利益」を強く打ち出す中国は、9月末には初の航空母艦・遼寧を就航させた。加えるに、我が尖閣諸島に対する領有意欲をあからさまに打ち出す。太平洋における海洋覇権を目指し着々と布石を打ちつつある中国だが、その派手な動きに目を奪われている間に、陸路による“熱帯への進軍”は着実に進んでいた。

 2010年に着工し、ミャンマー国内から中国に向けて東北方向に横切るように進められていたパイプライン建設工事のなかで難関の1つといわれていた瀾滄江(下流でメコン川と名前を変える)越えが、10月24日午後に完了している。場所は雲南省の保山と大理の交わる辺り。伝えられるところでは、瀾滄江両岸の傾斜は50度から80度。川面から1363mの高さを280mのパイプラインで結んだというのだ。

 全体工事の着工は2010年。バングラデシュに近いミャンマーのベンガル湾に浮かぶチャウピュー島深海港を起点にして、ミャンマー側のナンカンから中国側の瑞麗を経て、中国の中では「インド洋にいちばん近い街」と自称する芒市、日中戦争激戦地の1つである龍陵を経て保山、大理を経由して昆明まで。まさに日中戦争中に重慶に落ち延びた蒋介石政権を援助すべく連合国が建設した「援蒋ルート」の現代版だ。

 今年ゴールデンウィークに雲南省西部辺境を訪ねた際、現地でパイプライン建設現場を目にしたが、峻厳な山河を越えて延々と続く2本のパイプラインは圧巻だった。1本が天然ガス、1本が石油輸送用だ。長さはミャンマー国内で800km余、中国国内部分が1700km余で、総延長は2500km前後。天然ガスはラカイン州沖の採掘で年間120億立方メートル規模が中国に輸出される。バングラデシュに近いベンガル湾沿いの同州からは、宗教紛争が伝えられる。一方の石油は、パイプライン起点のチャウピュー島深海港近くに建設中の巨大な原油基地を経由して年間2200万トンの輸送が可能とのことだ。

 予定通りに来年5月までに工事が完了し運用開始となれば、中国は宿願達成にまた一歩近づく。マラッカ海峡を経由せずとも、中東のエネルギーを確保できることになるからだ。かくしてアメリカを睨んでヴェトナムやフィリピンなどASEAN諸国との間で係争中の南シナ海問題に対し、中国は“余裕”をもって臨めることになるだろう。

 パイプライン工事が瀾滄江を越えた頃、中国とラオスの間の高速鉄道建設費として中国が70億ドルの融資を認めたことを、ラオスのエネルギー鉱産大臣が明らかにした。昆明とラオス首都のヴィエンチャン間を結ぶ鉄道建設計画は、10年12月には両国政府間で合意されていたが、資金面がネックとなり着工が遅れていた。

 現在、バンコクからヴィエンチャンまでは鉄道が敷設されていることから、今回の合意に従って15年に昆明=ヴィエンチャン間418kmの鉄道が完成するなら、その瞬間に昆明とシンガポール間の3900 kmは結ばれることになる。この路線は中国が東南アジア大陸部に敷設予定の昆明とシンガポールを結ぶ乏亜鉄路3路線(東部路線、中央路線、西部路線)のうちの中央路線に当たる。

 70億ドル融資の見返りとして、中国は20年までの8年余の間、炭酸カリウム、木材などの原材料や衣料品など年間500万トン分の提供をラオスに求めているようだ。

 ラオスへの70億ドル融資が明らかになった同時期、中国政府は「雲南省加快建設面向西南開放重要橋頭堡総体制規格(2012-2020年)」を正式決定している。これにより、雲南省の党委員会と省政府を「橋頭堡」と位置づけ、中央政府関連部門や周辺省を連動させた東南アジア大陸部進出が国家レベルで本格始動することになる。

 振り返れば1992年7月に李鵬首相(当時)が「西南各省は連合して改革を加速し、開放を加速し、東南アジアに向かうことを希望する」と語ってから今年で20年。どうやら“熱帯への進軍”のための総力戦態勢が整えられたようだ。一方、西方に目を転ずれば、パキスタンのダワタル港から新疆ウイグル自治区のカシュガルを経て中国本土まで鉄道とパイプラインの敷設工事が伝えられる。

 マラッカ・ジレンマを克服しつつあるという現実が、中国の太平洋進出、海洋覇権掌握への強い意欲を支えているに違いない。であればこそ尖閣問題も日中2国間問題と限定して捉えているかぎり、解決に向け日本にとっての建設的な前進は期待できないのではなかろうか。

(樋泉克夫)

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 3

Latest Images

Trending Articles





Latest Images